2018年全日本卓球選手権大会ジュニアの部で優勝し、一躍時の人となった出澤杏佳選手。
トップ選手の多くがパワーとスピードでねじ伏せるシェーク裏裏ドライブ型が多い中、フォア面に表ソフト、バック面に粒高ラバーを貼るという、現代のトレンドとは真逆を行く「超異質」な戦型の出澤選手。
粒高は限界があるといわれる中、粒高でも勝てることを示してくれたたいへん良い例です。
異質ラバーが放つナックルや変化は、相手の予測を狂わせ、大金星を勝ち取ってきました。
現在は実業団のレゾナックに所属し、また、2025-2026年のTリーグではトップおとめピンポンズ名古屋と契約している選手です。
本記事では、出澤杏佳選手の実績やプレー、使用用具について紹介します。
出澤杏佳選手の戦績
単なる一過性のブームで終わらず、現在も実績を残し続けています。それは徹底した自己管理と戦術の積み重ねによる確かな実力があることを示すものです。
世界ランキング
2019年6月より、ランキングレコードが付いています。
| 部門 | ランキング | 最高ランキング | 取得時期 | |
|---|---|---|---|---|
| シニア | 2026年第17週 | 92 | 62 | 2025年第47週 |
| 女子ダブルス | 2026年第17週 | 268 | 202 | 2025年2月 |
| 混合ダブルス | 2026年第17週 | 31 | ||
| 21歳以下 | 88 | 2020年2月 | ||
| ジュニア | 48 | 2020年2月 |
主な戦績
2018年に全日本ジュニアで優勝した時は、全くのノーシード、ノーマークから一躍シンデレラとなったような印象を受けますが、実際はそんなことはありません。
小学生時代から既に全国レベルの成績を残している実績のある選手です。
| 年 | 大会名 | 部門 | 順位 |
|---|---|---|---|
| 2012 | 平成24年度全日本卓球選手権大会 | カブ女子 | 準優勝 |
| 2014 | 平成26年度全日本卓球選手権大会 | ホープス女子 | 準優勝 |
| 2018 | 平成30年度全日本卓球選手権大会 | ジュニア女子 | 優勝 |
| 2019 | アジアジュニア&カデット卓球選手権大会 | 女子シングルス 女子ダブルス | 準優勝 3位 |
| 2021 | 第87回全日本学生卓球選手権大会 | 女子ダブルス | 準優勝 |
| 2022 | 第88回全日本学生卓球選手権大会 | 女子シングルス | 準優勝 |
| 2023 | 第31回FISUワールドユニバーシティゲームズ | 女子団体 女子シングルス 混合ダブルス | 準優勝 準優勝 3位 |
| 2023 | 全日本大学総合卓球選手権大会 | 女子シングルス | 優勝 |
| 2024 | 全日本大学総合卓球選手権大会 | 女子シングルス 女子ダブルス | 優勝 3位 |
| 2025 | WTTフィーダー イスタンブール大会 | 女子シングルス | 優勝 |
2020年の全日本卓球選手権(一般の部)の結果は、木原美悠選手に敗れてベスト32に終わってしまいました。
しかし5回戦では、当時東京五輪代表が内定していた平野美宇選手を、まだジュニアだった出澤選手が破ったことは衝撃を与えました。
つぶまる出澤選手の異質スタイルが、世界に通用することを証明した瞬間でもあるよ。
出澤杏佳選手の歩み
小学1年生より日立大沼卓球で卓球を始めます。
出澤選手は、卓球をはじめてすぐの小学生のうちから表ソフト&粒高のプレースタイルになりました。
当時出澤選手を指導した小貫コーチは出澤選手のフォームを見て、勝つために異質にしたと、インタビューに答えています。
中学校は卓球の名門四天王寺中学に進学したものの、不本意な「カットマンへの転向指示」や周囲のレベルの高さに心が折れ、地元に戻っています(そういう選手はときどき耳にします)。
一度はラケットを見たくないほど卓球嫌いになっていましたが、母と後押しと、小貫コーチとの再会で再びラケットを握り、
誰かに強くしてもらうのではなく、自分で考えて強くなる
と決意を固めています。
この決意が、出澤選手の現在のあの独特なプレースタイルを生み出し、その後の活躍に繋がっているといえるのではないでしょうか。
決して順風満帆の卓球人生ではなく、一度は挫折を経験し、特異な自分の卓球を磨き上げて這い上がってきた物語は、非常に好感が持てます。
2018年全日本卓球選手権大会 ジュニアの部優勝
優勝候補と目された長﨑美柚選手や大藤沙月選手たちを下して優勝し、一気に注目を集めました。
長﨑美柚選手はこの時、「粒高の対策を全然してこなかった」と試合後のインタビューで答えていますが、対戦はこの時が初めてではなく、過去には何度も対戦して長﨑選手が勝利しています。
決勝戦では、フォアの表からのスマッシュを嫌がった大藤沙月選手は出澤のバックを攻めますが、出澤選手は冷静に粘り強く対応し、逆に大藤選手のがペースを乱されて自滅した場面が多くありました。
バックがダメならフォアへボールを送ると、フォア面に貼った表ソフトラバーのスマッシュが飛んできます。
スマッシュのミスも少なく、決定力があります。



この決定力は見習いたいですね。
表ソフトでのスマッシュは裏ソフトでのスマッシュとは球質が違うため、対応しづらかったと思われます。
大藤選手は出澤選手の球質の変化にイライラして、焦っているようにも見て取れました。
アジアジュニア&カデット卓球選手権大会 シングルスの部準優勝
ナショナルチームの一員として参加したアジア選手権では、シングルスで準優勝しました。決勝戦では長崎美柚選手との日本人対決となり、敗れてしまいましたが。
準決勝で中国人選手を粒の変化で翻弄しているのがよく分かります。このぐらい粒高を使いこなせるようなレベルに、私はなりたい…(練習しろ、自分)
第31回FISUワールドユニバーシティゲームズ
対戦している何卓佳選手は、裏粒の異質型選手。
出澤選手が中国選手を破ったことで話題になっていましたが、同時に異質型プレーヤーにとって「異質」対「異質」の対戦ということでも注目カードでした。
同じ異質型でも、戦い方が全然違いますね。



出澤選手のピッチの速さよ。


全日本大学総合卓球選手権大会
2025年、出澤選手4年生の時の決勝戦の相手は、前年と同じ青井さくら選手(筑波大)。2024年は競り勝って涙の優勝となったが、2025年は貫禄の2連覇。
2023年は決勝戦で3-0からの悪夢の逆転負けを喫しているので、勝負師としてメンタル面での成長が伺えます。ています。
出澤杏佳選手のプレースタイル
現代卓球の逆を行く出澤選手のプレースタイルは、現代卓球の強みであるパワーとスピードを無効化する粒高の変化と、強烈なフォア表によるミート打ちと言った緩急にあります。
相手の強烈なドライブを粒高でブロックすれば、それは即座に猛烈な下回転へと変換されます。
裏ソフト同士の対戦に慣れた相手にとって、出澤選手の放つ不規則な変化は、打球のタイミングと打点を狂わせる殺傷能力の高い毒。
プレー動画を見ると、相手が粒高の変化に惑わされ、うっかり甘い返球をしてしまえばフォア表の強烈なスマッシュが返ってきます。
異質攻守型とは、力の卓球ではなく、相手の嫌がる場所へ嫌が球を送り続ける「知略の卓球」です。
そして出澤選手の試合をよく見ると、ときどきラケットを反転させて打っていることが確認できます。
異質攻守型の選手は、福岡春菜選手のように全く反転させない選手もいれば、ザビーネ・ヴィンター選手のように反転させてバック側の攻撃力を補う選手もいます。



私だったら、今どっちの面で打っているのかわからなくなって、混乱して自滅しそう。
出澤杏佳選手の使用用具
出澤杏佳選手は、VICTASのアドバイザリースタッフです。ラバーはVICTAS製品を使用しています。
使用用具が紹介しているものと変わっている可能性もありますので、ご了承ください。
ラケット:ニッタク「剛力」
出澤選手が使用しているラケットは、粒高使用者にはすでにおなじみの剛力です。
異質型選手といえば剛力と言えるぐらい、日本の大会における粒高選手の剛力率が高まっているように感じます。私も愛用しています。
フォア面:VICTAS VO>102(2.0mm)
表ソフトでありながら、裏ソフトに近い回転量を確保できる「VO>102」を使用しています。
粒の形状は台形で横目なので、回転もある程度かけやすく、安定した球が打てます。
出澤選手は、バック面で変化をつけつつ、このラバーでブチ切れのサーブを出し、決定力の高いスマッシュをバシバシ打って得点を奪いに行くメリハリを実現しています。
バック面:VICTAS カールP5V(OX)
攻撃ができる粒高ラバーというのをコンセプトに開発されたラバー。ルールの範囲内で最大の高さと太さを誇ります。
最大の特徴はその粒の硬さ。
この硬い粒でカット性ブロックをしたりする場合は、自分で切りに行かなければなりません。意図的にしっかりと粒を倒さないと、当てるだけではナックルにしかなりません。
粒が硬いので、インパクトの強さが非常に重要になってくるラバーと言えます。相手の球もある程度強くないと、硬い粒は倒れてくれませんが、トップクラスならそれは問題にならないでしょう。
強いインパクトを与えることができる選手であれば、このラバーはものすごい武器になります。なぜなら、ブロックもプッシュも、切れたボールもナックルも、変幻自在。
また、スポンジのないOXは相手の威力を殺しやすく、自ら強く弾くミート打ちにも適しています。
出澤選手は、粒を倒して変化をつける打ち方をしているときもあれば、表のように弾く打ち方をしているときもあります。粒高の技術が豊富でひじょうに参考になりますね。
まさに攻撃的変化球。
少なくともボールに勢いのないおばさん卓球(ただし、上位陣を除く)には向いていないラバーです。球威が弱いと、粒を倒すのが難しいから…。
まとめ:高みを目指し続ける精神
大学卒業後、出澤選手は実業団の名門・レゾナックを選びました。ジュニア時代から慣れ親しんだ地元・日立市に拠点を置くチームへの加入は、彼女にとっての「凱旋」の意味もあるかも知れません。
座右の銘は「人事を尽くして天命を待つ」。
「自分ができる限界までやって、どこまでいけるか。その過程こそが大事」と、具体的な順位を超えた、技術の深淵への探求心が宿っているといえます。
画一化された現代卓球に「違和感」という名の異質卓球への追求は、卓球界のプレースタイルの多様性を象徴しています。
これからも世界のトップランカーたちを翻弄し続けるのではないでしょうか。












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